親の家に物があふれ、片づけてもすぐに元に戻ってしまうといった状況に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。もしかすると、それは単なる片づけ下手ではなく「ためこみ症」の可能性があります。ためこみ症の場合、無理に物を捨てさせると親子関係が悪化することもあるため、正しい理解と対応が求められます。

当記事では、ためこみ症の特徴や原因、親との向き合い方やサポートのコツを解説します。

親がためこみ症かも？特徴を解説

親の家が物であふれていると、「ためこみ症ではないか」と不安を感じる方もいるでしょう。ためこみ症は、不要な物を過剰に集め、捨てられず、生活に支障をきたす精神疾患の一つです。単なる片づけ下手とは異なり、強い不安や執着心が背景にあることが特徴です。正確な診断には医療機関の受診が必要ですが、ここではためこみ症に見られる代表的な特徴を解説します。

ものの整理ができない

ためこみ症の特徴の一つに、「ものの整理ができない」という状態があります。物の重要性や用途をうまく判断できず、必要・不要の区別がつかないのが特徴です。その結果、何から手をつけてよいか分からず、片づけが後回しになってしまいます。

本人は「後で整理する」と考えていても、行動に移せず物が増え続け、気づけば部屋の中が散らかった状態になります。整理が進まないのは意志の問題ではなく、情報の処理や決断に強いストレスを感じるためであり、精神的な負担が大きいのも特徴です。

ものを捨てられない

ためこみ症の人は、物への強い執着心を持っており、価値のないものでも「いつか使うかもしれない」「思い出がある」と感じて手放せない傾向があります。不要な物であっても、捨てようとすると強い不安や怒りを覚えることがあり、家族が片づけようとするとトラブルになるケースもあります。

また、物の価値を客観的に判断することが難しく、すべての物を同じように大切に扱うため、整理が進まなくなります。捨てられない状態が続くことで、家の中に物があふれ、生活空間が圧迫されても捨てられず、状況が悪化していくのが特徴です。

本来の目的で部屋が使えていない

ためこみ症の進行した家庭では、部屋が物で埋め尽くされ、本来の用途で使えなくなることがよくあります。キッチンの流し台やコンロの上に物が積まれ、調理ができない、リビングが収納スペースと化してくつろげない、床が見えなくなり歩くのも困難になるといった状態です。

通常通りに部屋が使えなくなると、日常生活にさまざまなリスクが生じます。通路が狭くなることで転倒事故や骨折の危険が高まり、物が倒れてケガをするケースもあります。さらに、ほこりやゴミがたまることで衛生環境が悪化し、ダニやカビの繁殖、悪臭、火災の原因にもなり得ます。

ためこみ症になる原因

ためこみ症の原因は一つではなく、複数の要因が重なって発症すると考えられています。代表的な要因を以下に挙げ、それぞれ解説します。

ためこみ症になりやすい人の特徴

ためこみ症になりやすい人は、幼少期から「物への強い執着」を持っていたケースが多いとされています。たとえば、ほめられた経験が少ない中で「紙を使った工作を評価された」「新聞紙で片づけをして褒められた」など、特定の物にまつわる成功体験がきっかけになることがあります。その物に安心感や承認の記憶が結びつき、やがて手放せなくなります。

また、完璧主義や優柔不断な性格傾向、孤独やストレスを抱えやすい人も、ためこみ症を発症しやすいと言われています。 

親がためこみ症の場合の向き合い方・対処法

親がためこみ症の場合、本人の了承なく物を処分すると強い拒絶反応を招き、親子関係が悪化するおそれがあります。無理に片づけを進めるのではなく、まずは相手の気持ちを尊重しながら少しずつ行動を促すことが大切です。以下では、信頼関係を保ちながら効果的にサポートする方法を紹介します。

ためこみ症のリスクを知ってもらう

親がためこみ症の場合、まずは「ためこみがもたらすリスク」を冷静に共有することが大切です。物が増え続けると、転倒や火災の危険が高まるほか、害虫の発生やカビによる健康被害が起こるおそれもあります。

いきなり「片づけて」と言うよりも、「安全に過ごしてほしい」「体に悪影響が出ないようにしたい」といった思いやりのある言葉を選ぶと、相手も聞き入れやすくなります。責めるのではなく、心配する気持ちを伝えながら、リスクを一緒に理解してもらうことが関係を保つポイントです。

ものを整理するメリットを知ってもらう

ためこみ症の親に片づけを促す際は、「捨てる」ことよりも「整理することで得られるメリット」を伝える方が効果的です。たとえば、「探し物が見つけやすくなる」「家の中を安全に歩ける」「快適に過ごせるようになる」など、具体的な変化をイメージさせると前向きな気持ちが生まれます。

また、掃除や整理を通して健康的な生活を取り戻すことは、自立や尊厳の回復にもつながります。小さな成功体験を重ねながら、整理の大切さを実感してもらう姿勢が大切です。

ものへの執着を和らげるよう促す

ためこみ症の人にとって、物は単なる所有物ではなく「安心」「思い出」「自己の一部」を象徴しています。そのため、無理に捨てさせるのではなく、気持ちに寄り添う姿勢が必要です。

たとえば、「これはどんな思い出があるの？」と話を聞くことで、執着の背景を理解できます。その上で、「写真に残しておこう」「一部だけ取っておこう」といった代替策を提案すると、少しずつ手放す準備が整います。相手の感情を否定せず、時間をかけて信頼を築いていくことで改善につなげられます。

時間を決めて一緒に片付ける

ためこみ症の親に片づけを促す際は、「一度にすべて片づけよう」とせず、短時間・小規模から始めるのが効果的です。たとえば「今日は30分だけ」「この棚の一段だけ」といった具体的な範囲を設定し、達成しやすい目標を共有しましょう。

親と一緒に作業することで、孤独感を軽減し、前向きな気持ちを持ってもらいやすくなります。また、片づけを通じて会話の時間が増えることも、関係性の改善につながります。焦らず寄り添いながら、少しずつ整理の習慣を取り戻していくことが大切です。

まとめ

ためこみ症は、不要な物を過剰に集めて捨てられず、生活に支障をきたす精神疾患です。物を整理・処分できない背景には、不安や執着、過去の体験など心理的要因が関係しています。

親がためこみ症の場合、無理に片づけを進めると関係悪化を招くおそれがあるため、まずはリスクや整理のメリットを理解してもらうことが大切です。物への思いに寄り添いながら、小さな範囲で一緒に片づけを進めることで、信頼関係を保ちつつ改善を目指せます。